年齢を重ねたり病気やケガで手が不自由になったりして「うまく字を書けない」という方は少なくありません。「字が書けないなら、遺言書を残すことはあきらめなければならないのか…」と思ってしまいがちですが、実は適切な手段を選べば遺言書の作成は可能です。
ここでは、字を書けなくても遺言を残したいときに考慮すべきポイントをわかりやすく整理し、自筆証書遺言で気を付けるべきことや公正証書遺言を活用するメリットについて説明していきます。
字が書けない遺言者の背景事情
「字が書けない」といってもさまざまな状況が考えられます。代表的な原因を挙げてみましょう。
高齢・病気・ケガなどで文字を書くのが困難
高齢になると手が震えて筆圧が弱くなったり、病気やケガで手指の自由を失ったり、極度に視力が落ちて手元が見えなかったりと、文字を書く行為自体が難しくなるケースは少なくありません。
- 脳梗塞後の後遺症で右手が使いにくい
- パーキンソン病などで手が小刻みに震える
- リウマチなどで指を動かすのが痛い
このような状況だと、自分の名前を書くにも苦労するかもしれません。
自筆証書遺言と無効の可能性
民法上、自筆証書遺言は全文・日付・氏名を遺言者本人が手書きすることが絶対条件とされています。どうしても字が書けない場合、他人に手を添えてもらうような行為は「もはや自署とはいえない」とみなされる恐れがあります。
ただし、字を書きやすいよう紙を支えてあげる程度の介助は容認されます。「文字をなぞるほどの補助」は、判例上も無効可能性が高いといえます。
自筆証書遺言は本人の「自書」が絶対条件
ルールさえ守れば手元の用紙を使って遺言書を作成することができるため、自筆証書遺言書は多くの人に人気の遺言形式です。しかし、後から無効とされないために、次の点に注意しましょう。
自筆証書遺言の基本的ルール
民法968条で、「自筆証書遺言は遺言者がその全文、日付、および氏名を自書し、押印しなければならない」と定められています。自分で文字を書くという部分が非常に重要で、他人の代筆は一切認められていません。
どこまでなら他人の助けを得ても大丈夫か
実際の現場では、「ペンを握る手が震えるので、家族が手を添えて補助した」という事例もあり得ますが、これは自書要件を満たさないと判断されるリスクが高いです。最悪の場合、せっかく苦労して書いた遺言が無効になるかもしれません。
介助の程度が大きいと「自書でない」とみなされる恐れ
- 軽度:紙を押さえてブレないようにする → 問題ない可能性が高い
- 中度:遺言者の手を少し誘導する → グレーゾーン
- 重度:ほぼ全て他人がペンを動かす → 自署とは認められない恐れ大
公正証書遺言なら字が書けなくても作成可能
自筆証書遺言の「自書要件」が厳しい一方、公正証書遺言なら、遺言者が公証人に口頭で遺言内容を伝え公証人がそれを筆記するため、本人が字を書かなくても遺言を残せる大きなメリットがあります。
署名ができない場合は公証人が代筆できる(民法969条)
公正証書遺言では、通常、遺言者が署名をすることになっていますが、民法969条4号但し書きには「遺言者が署名できない場合は、その事由を公証人が付記して、署名に代えることができる」と明記されています。
すなわち、字が書けない遺言者であっても、その理由を公証人が正当と認めれば、公証人が署名を代行することで公正証書遺言が成立するということになります。
公正証書遺言の作成手順:口頭で遺言内容を伝え、公証人が筆記
- 事前に公証人や法律の専門家と打ち合わせして遺言の原案を作る
- 作成当日、遺言者は公証人に対し「〇〇という財産を△△に遺贈する」等の内容を口頭で伝える
- 公証人がその内容を筆記し、遺言者・証人に読み聞かせまたは閲覧させる
- 遺言者が「書かれた内容は自分の意思と同じ」と確認
- 遺言者が署名押印 → もしできなければ公証人が理由を付記し代わりに署名
字が書けない状況でのトラブルを回避するために
「字が書けない」という身体的制約だけでなく、遺言者に意思能力(認知機能)があるかが争点になりやすいといえます。もし認知症や意識混濁などで、財産分配の意味を十分理解できていなかったと判断されると、遺言自体が無効となる恐れがあります。
遺留分トラブルにも配慮
形式上は有効に作った遺言書でも、一部相続人の遺留分を大きく侵害していると後から争いになるかもしれません。特定の相続人に財産を多く残したい場合は、遺留分対策をしっかり考えることが大切です。
医師の診断書や介護記録で意思能力を証明
高齢者や病気の方が遺言を残す際、「作成時点で十分な意思能力があった」ことを証明するために医師の診断書や介護記録を用意するのも良い手段です。後で相続人同士が争った場合にも、証拠として有用です。
まとめ
「手が震えてうまく署名できないから遺言書を作れない」とあきらめる必要はありません。むしろ、字が書けない状況こそ公正証書遺言が最適な選択肢になる場合が多いです。元気なうちに専門家へ相談し、意思能力が十分なうちに公正証書遺言を作成するのがおすすめです。
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