自分の死後、財産をどのように分配してほしいかを示す「遺言書」。遺言書があることで、相続人間の協議が不要になり、家族が余計なトラブルに巻き込まれにくくなります。しかし、遺言書を作成するには民法で厳格なルールが定められており、それを守らないとせっかくの遺言が無効になるリスクがあります。

 

ここでは、自筆証書遺言と公正証書遺言の基本的な作成ルールを中心に、具体的な注意点や違いをわかりやすく解説します。最後まで読めば「自分にはどちらの方式が合っているのか」をイメージでき、安心して遺言書作成に取りかかれるでしょう。

 

遺言書作成のルールが厳格な理由

遺言書は、被相続人の最終的な意思表示です。通常の契約行為より重みがあり、被相続人の死後に効力を発揮することから、遺言書が真に本人の意思かどうかを法律で厳重にチェックする必要があります

 

形式不備でも無効になる

遺言書は、相続人同士による協議を不要にするだけでなく、法定相続分を越えた自由な財産配分を実現できるなど、強力な効力を持ちます。そのため、押印を忘れたり日付があいまいだったりするなどの些細なミスでも、裁判所によって無効と判断されるケースが少なくありません

 

自筆証書遺言の基本ルール

自筆証書遺言は、民法968条にもとづき以下の要件を満たさなければなりません。

 

  1. 遺言書の全文を遺言者が自筆で書く(パソコン印字不可)
  2. 正確な日付を記入(「令和月吉日」は無効リスクが大)
  3. 遺言者本人の氏名を自書
  4. 押印(実印が望ましいが、認印でも可とされる)

 

1つでも欠けると無効になるため注意が必要です。特に日付を省略したり、「年春頃」など曖昧な表現をしたりすることは避けましょう

 

訂正・削除・加筆の方法に要注意

自筆証書遺言では、誤字脱字や文章の追加などの訂正をする際に、以下のような厳格な手続きを踏む必要があります

  • どの箇所を何文字削除し、どこに何文字追加したかを余白に明記
  • 訂正箇所付近に署名押印
  • 民法所定の方式を満たさない訂正は無効

煩雑なため、大きな間違いがあれば一度書き直すか、専門家に相談して正しい訂正を施すのが望ましいです。

 

自筆証書遺言保管制度(検認の省略)

2020年710日からスタートした自筆証書遺言保管制度(法務局による保管)を利用すると、従来必要だった家庭裁判所での検認手続きを省略できます

  • 自宅で保管すると紛失や改ざん、相続人が見つけられないリスクがある
  • 法務局に預ければ安全に保管されるうえ、検認不要で相続手続きがスムーズになる

ただし、法務局は遺言の形式(押印や署名)の有無をざっとチェックするだけで、内容の有効性まで保証するものではない点には注意しましょう。

 

公正証書遺言のルール

公正証書遺言は、公証人が遺言内容を聴取し、法的に不備のない文書として作成する方式です。公証人が法律のプロとしてチェックしてくれるため、形式不備による無効リスクがほぼなく、さらに検認手続きも不要です。費用や手間がかかる面はあるものの、紛失や改ざんの恐れが少なく安心度が高いのがメリットといえます。

 

検認不要で形式不備のリスクが少ない

自筆証書遺言の場合、相続開始後に家庭裁判所で「検認」を受けなければ開封できませんが、公正証書遺言にはその手続きが不要です。さらに、公証役場が原本を保管するので、紛失や隠匿のリスクを大きく減らせます。

 

ただし、作成時に証人2名を用意し、公証人手数料を負担する必要があるのがデメリットです。相続人や受遺者など、利害関係が強い人は証人になれませんので、あらかじめ理解しておきましょう。

 

共同遺言の禁止

民法975条は「2人以上の者が同一の証書でする遺言は無効」と定めています。夫婦がひとつの紙に「私が死んだらこう、あなたが死んだらこう」と書くような共同遺言は、自由な撤回や変更を阻害するため法律上禁止されるのです。

 

判例が示す独立遺言の考え方

同一の紙に書かれていても、2人の遺言が完全に独立しており、それぞれを切り離せば1通ずつ成り立つ場合には「共同遺言に当たらない」とされた判例があります(最高裁平成51019日)。とはいえ、夫婦それぞれが別紙に個別に遺言書を作成するほうが無難でしょう。

 

よくある質問と注意点

人生のなかで遺言書を何度も書くことはあまりないものですから、いざ遺言書作成となった場合、さまざまな疑問点が生じるのではないでしょうか。ここでは、代表的な疑問について回答していきます。

 

押印は実印が望ましい?

民法上、実印を使わなければならない、と決められているわけではありませんが、実印の方が信憑性が高いのは事実です。認印でも法的には有効とされるケースが多い一方、後日トラブルにならないよう実印を使うことを推奨します。

 

遺留分をどう扱うか?

遺言で「全財産を特定の子に与える」としても、配偶者や他の子には遺留分(最低限の取り分)がある場合、後々「遺留分侵害額請求」を受ける可能性があります。

 

どうしても特定の相続人に相続させたくない場合は「推定相続人の廃除」の手続きを検討することもできますし、そうでなければ遺留分を踏まえた財産分配を考慮し、トラブル防止に努める必要があるでしょう。

 

認知症など、判断能力が不安な場合はどうする?

遺言者に意思能力がないと判断されれば、遺言が無効になります。認知症が疑われるなら、公正証書遺言にして公証人の面前で作成したり、医師の診断書を用意したりするなど、無効化されないための対策を取ると安心です。

 

まとめ

遺言書は、相続発生時に被相続人の思いを明確に伝え、骨肉の争いを防ぐ強力なツールですが、一方で形式的なルールが厳格に定められています。自分の意思をしっかり実現したいなら、民法の規定に則った正しい作成方法を守ることが欠かせません

 

当行政書士法人では、自筆証書遺言の書き方アドバイスから公正証書遺言の作成サポートまで、多角的に支援しています。遺言書の形式や内容が不安な方は、まずは無料相談をご利用いただき、将来の相続に備えてみてください。

 

問い合わせバナー
予約カレンダー
予約カレンダーメールでのお問い合わせ電話でのお問い合わせLINEでのお問い合わせ