遺言書は遺言者が自分の意思を示す重要な法的文書ですが、いくつかの理由により無効となることがあります。また、遺言書には撤回や取消が可能な場合もあり、これらの手続きについて正しく理解しておくことが非常に重要です。
今回は、遺言書が無効になる原因や、遺言の取り消しについて詳しく解説します。
遺言書が無効になる主な原因
遺言書が無効とされる理由には、主に【遺言書に特有の無効原因】と、【一般的な法律行為に関連する無効原因】が存在します。以下にその内容を説明します。
1. 【遺言書に特有な無効原因】
遺言書が無効となる原因は、主に遺言書が法律で定められた方式に従っていなかった場合や、遺言者の能力が欠如していた場合などです。
方式違反
遺言書は法律で定められた方式に従って作成されなければ、その効力を発揮することはありません。たとえば、自筆証書遺言を作成する場合は、遺言者が自筆で全文を書き、署名と押印を行う必要があります。これらの法的要件を満たさない場合、その遺言書は無効となります。
遺言能力の欠如
遺言書を作成するためには、遺言者が一定の能力を持っている必要があります。日本では、遺言書を作成できるのは「満15歳以上」の人に限られます。したがって、遺言者が15歳未満であれば、その遺言は無効です。また、遺言者が精神的に判断能力を欠いた状態で遺言書を作成した場合も、無効とされます。
共同遺言
複数の人が共同で作成した遺言書(共同遺言)は原則として無効です。具体的には、2人以上が同一の証書で遺言を作成した場合、その遺言は法的効力を持ちません。遺言はあくまで遺言者1人の意思を反映するものであり、他者との共同作成は認められていません。
後見人による遺言
後見制度を利用している場合、遺言者が後見人またはその近親者(配偶者や直系卑属)に利益を与える遺言を作成した場合、その遺言は無効となります。これは、後見人が遺言者の利益を不当に操作することを防ぐためです。ただし、後見人が直系血族や配偶者、兄弟姉妹である場合には、この規定は適用されません。
2. 【一般的な法律行為における無効原因】
遺言書が法律行為として無効となる理由としては、以下のような原因があります。
公序良俗違反
遺言書の内容が公序良俗に反する場合、その遺言は無効です。公序良俗とは、社会の秩序や道徳に基づく基本的なルールであり、これに反するような内容の遺言は認められません。極端な例としては、「誰かを殺したら全財産をあなたに相続させる」といった内容が挙げられます。このような遺言は法的に無効です。
錯誤
遺言書が作成された際に、遺言者が重要な点で錯誤(誤解)を犯した場合、その遺言は無効となることがあります。たとえば、遺言者が相続人や財産の内容について誤った認識をしていた場合、その誤りに基づいて遺言を作成したとき、その遺言は無効です。この場合、錯誤がなければ遺言者はそのような内容の遺言を作成しなかっただろうと推測されるため、遺言の無効が認められることがあります。
遺言の取消し(撤回)
遺言書は基本的に生前であればいつでも撤回や変更が可能です。しかし、詐欺や強迫によって遺言が作成された場合や、遺言者がその後に意思能力を失った場合、遺言者は自ら遺言を取り消すことができません。こうした場合には、遺言者の成年後見人などが代わりに取り消しの手続きを行う必要があります。
詐欺や強迫による遺言の取消し
遺言書が詐欺や強迫によって作成された場合、その遺言は無効となります。遺言者が他人に脅迫されて遺言を作成した場合、あるいは嘘をつかれて誤った情報を元に遺言を作成した場合、後からその遺言を取り消すことができます。しかし、遺言者がその後に意識不明や認知症などで意思能力を失ってしまった場合、遺言者自身が撤回できないため、その後は成年後見人が取り消しの手続きを行う必要があります。
取消権の相続
遺言の取り消し権は遺言者の相続人に相続されます。つまり、遺言者が亡くなった後、遺言が詐欺や強迫で作成された場合、相続人がその取り消し手続きを行うことができます。この権利は遺言書が作成された理由に関わらず、相続人に引き継がれるため、相続人が遺言書の無効を主張することが可能です。
まとめ
遺言書が無効となる原因には、遺言書作成時の形式的な問題や、遺言者の精神的能力に関する問題、さらには内容が公序良俗に反する場合など、さまざまな理由があります。
また、遺言は基本的に生前であれば撤回や変更が可能ですが、詐欺や強迫によって作成された場合、または遺言者がその後に意思能力を失った場合には、遺言者の成年後見人などがその取り消し権を行使することが求められます。遺言書の無効や取消に関する問題は非常に複雑であり、専門家に相談することが最も確実です。