将来に備えて遺言書を作成したいと考えていても、自分自身が高齢になったり認知症の疑いが生じたりした場合、遺言書を作成しても無効になるのではないか?と不安に思う方も少なくないでしょう。
法律では遺言書の有効・無効の要件を定めていますが、中でも重要なのが遺言能力、つまり判断能力の有無です。
ここでは、遺言作成に必要な判断力の基準や年齢要件、無効とされないための注意点について説明していきます。
遺言能力(判断能力)の法律的な定義とは
民法では、遺言書が有効であるためには、作成時点で遺言者に意思能力があることが必要とされています。これはつまり、「自分の行為の意味を理解し、自分の意思で判断できること」を指します。
意思能力
- 物事の善悪を理解し、自己の意思で行動できる能力
判断能力
- 自分の財産や相続人に関する処理を合理的に決められる力
たとえば、軽度の認知症であっても、その時点で意思能力があると判断されれば遺言は有効となります。ただし、重度の認知症で意思疎通が困難な場合は、無効とされる可能性が高くなります。
年齢要件と署名要件にも注意
遺言を有効に作成するには、判断能力だけでなく、次のような要件も満たす必要があります。
1. 遺言者の年齢要件
法律では、遺言ができるのは15歳以上と定められています。
2. 自署・押印の義務
自筆証書遺言では、次の要件が不可欠です。
- 全文を本人が自筆で書くこと
- 氏名と日付も自筆で書くこと
- 押印があること
※2020年の民法改正で財産目録だけはパソコン出力でも可となりましたが、署名と押印は必要です。
代理での遺言作成は認められない
遺言は本人が書かなければなりません。代理人が「親の代わりに筆をとって遺言書を作る」といった行為は、法律上一切認められていないため、作成手続き自体が無効になります。
理由としては、遺言は被相続人本人の最終意思表示であり、財産をどう処分するか直接的に意志を示す行為だからです。
専門家のサポートでも「遺言書の代理作成」は不可
相続の専門家が遺言作成のお手伝いをする場合も、あくまで文案のアドバイスや方式面のチェックにとどまります。専門家が勝手に本文を代筆してしたり本人が理解していないまま押印させたりすると遺言自体が無効になる可能性が高いです。
成年被後見人が遺言書を作成する場合
成年被後見人は、簡単に言えば認知症等で十分な意思表示が難しい方が、家庭裁判所の審判によって「成年被後見人」と認定された状態を指します。財産管理や身上看護のため、法定の成年後見人がつく仕組みです。
被後見人の判断能力の状態により遺言が可能
民法では「成年被後見人が一時的に意思能力を取り戻しているならば、遺言を有効に行える」と定めています。これは、たとえ普段は認知症等で判断力が足りないとされる人でも、一時的に明晰な状態で遺言の意味を理解し、かつ自発的に書けるなら、その遺言を有効とみなすという考え方です。
医師2名の立会いが必須
ただし、成年被後見人が遺言書を書くには、2人以上の医師の立会いが要件とされています。これにより、「本当にこの時点で判断能力があったのか」を確保する仕組みです。
つまり、医師2名が「遺言を理解している」と確認しなければ、遺言能力があったとは認められにくいということになります。
遺言の有効性をめぐるトラブル例
遺言書が無効とされたり相続人間で争いになったりする例は少なくありません。よくあるトラブルとして以下のようなケースを挙げることができます。
1.高齢者が書く遺言で内容が複雑であるケース
高齢者が、本人の健康状態を考えても複雑な内容の遺言書を作成した場合、親族が「この遺言の日時に本当に意思能力があったのか?」と疑問を持ち、裁判で無効を主張する可能性があります。
2.認知症の方が施設で遺言書を書いたケース
施設において遺言書を作成するにあたり「誰がどう介入したか」はとても重要です。また、あらかじめ医師の診断書をとっていたかなどが問題になる可能性があります。
3.急病や危篤状態で書いた「危急時遺言」のケース
急病や危篤ということは本人の健康状態が著しく悪いということですから、遺言時点での本人の意識や意思表示能力が焦点となる可能性があります。
このほかにも、「遺言書の内容が不自然であり特定の相続人に極端に有利な遺言書」や「日付や署名が抜けている自筆証書遺言」なども含めて、遺言の有効性が争点になり家庭裁判所で遺言無効確認の訴訟が行われるケースはいくつもあるのです。
遺言作成時の判断能力に不安がある場合の3つの対策
遺言者の年齢や健康状態、判断能力などに不安がある場合、後になって遺言書の有効性が問題視される可能性があります。そういったリスクを考慮し、遺言者は遺言作成に際して次のような対策を採っておくことが大切です。
① 医師の診断書を取得しておく
遺言作成時に「意思能力がある」と証明できるように、医師による診断書(または意見書)を残しておくと有効です。特に、過去に認知症の診断歴がある方は、作成直前の診断書が有力な証拠になります。
② 公正証書遺言の作成を選ぶ
公正証書遺言は、公証人と証人2名の立ち合いのもとで作成されるため、意思能力の有無についても記録に残ります。そのため、後から「無効だ」と争われにくく、最も確実な方法といえるでしょう。
③ ビデオ録画・メモの保存
遺言作成時の様子を動画で録画しておく、あるいは本人が「なぜこのように相続させたいか」などを手書きメモにして残しておくのも一つの方法です。これにより、判断能力や意思表示の明確性を補強できます。
まとめ
遺言書の有効性は、作成時点の判断能力が大きく影響します。特に高齢の方や、軽度認知症の診断を受けている方は、「遺言はいつでもできる」と思わず、判断力があるうちに早めの準備をすることが大切です。
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