「入院中の親の容体が急変したが、どうしても遺言を残したい」といった状況では、通常の遺言方式(自筆証書遺言や公正証書遺言、秘密証書遺言)の作成が難しい場合があります。そのような一刻を争う緊急事態では、民法が定める「特別方式の遺言」のうちの一つ、「危急時遺言」を利用する方法があります。
ここでは、危急時遺言の特徴や作成要件、手続きの流れなどについて説明していきます。
危急時遺言とは?一般方式との違い
危急時遺言は、遺言者が命の危機に瀕しているときに「どうしても遺言を遺したい」という場合に限り、特別に認められる遺言形式です。具体的には、病気の進行が重篤で自筆証書遺言を手書きする力がない、あるいは公正証書遺言を作成する手間がないといったケースが想定されます。
一般方式の遺言(自筆・公正証書・秘密証書)との比較
民法上、遺言には「一般方式」と「特別方式」があり、通常は自筆証書遺言や公正証書遺言などの一般方式で作成します。しかし、以下の状況における遺言作成については、特別方式とよばれる手段で遺言を遺すことが認められています。
- 危急時遺言
- 伝染病隔離者の遺言
- 在船者(船舶上)などの遺言
- 船舶遭難時の遺言(難船危急時遺言)
「一般危急時遺言」と「難船危急時遺言」
危急時遺言は、状況に応じて「一般危急時遺言」と「難船危急時遺言」に分けることができます。それぞれの特徴は次の通りです。
一般危急時遺言【病床などで作成する特別方式】
最もイメージしやすいのが「一般危急時遺言」でしょう。遺言者の病状が重篤であり、通常の遺言手段(自筆証書・公正証書など)をとる余裕がない場合に、証人の手助けを得て作成します。
難船危急時遺言【船舶遭難時】
民法979条では、難船危急時遺言を定めています。これは遭難した船舶上で命の危機があるとき、証人2人以上が立ち会い、口頭で意思表示を行う形です。
ただし、遭難が解消され、普通方式での遺言が可能となってから6ヶ月経過した場合、先に作成した難船危急時遺言は効力を失います。
一般危急時遺言の作成要件と手順
「一般危急時遺言」をスムーズに作るためには、以下の要件・手順を押さえておきましょう。
証人3名以上が立ち会う
危急時遺言には、3人以上の証人が必要です。証人資格には制限があり以下の人物は証人になれません。
- 未成年者
- 推定相続人や受遺者
- 推定相続人・受遺者の配偶者・直系血族
- 公証人やその配偶者、4親等内の親族、書記 など
証人の1人が遺言内容を書面化して読み聞かせ確認を行う
遺言者が口頭で「どう財産を分配したいか」などを証人に伝え、証人の1人がこれを書面化します。書面化した遺言内容は、証人が遺言者と他の証人に読み聞かせ、正しい内容か確認してもらいます。
証人全員が署名押印
読み聞かせ内容について遺言者が了承したら、証人3名すべてが書面に署名押印することで危急時遺言の作成が完了します。印鑑に関しては実印・認印いずれも可とされている点も覚えておきましょう。
20日以内に遺言確認の審判申立て
危急時遺言は、後から「本当に遺言者の意思だったのか?」と疑われる可能性が高いため、法律は作成日から20日以内に家庭裁判所で「遺言確認の審判」を受けなければならないと定めています(民法976条2項)。
- 遺言者が生存している場合→遺言者の住所地を管轄する家庭裁判所
- 遺言者が死亡した場合→相続開始地(被相続人の最後の住所地)を管轄する家庭裁判所
裁判所が確認し、「この危急時遺言は遺言者の真意に基づく」と認められれば、正式な遺言として効力を発揮します。
危急時遺言の効力と失効条件
危急時遺言は「一般方式の遺言を作成できないほど死期が迫っている」ことが前提です。有効な危急時遺言が作成された場合、裁判所による確認審判後に通常の遺言と同じ効力を持ちます。
状況好転後6ヶ月生存すれば効力失効
もし遺言者が危急状態から回復し、普通方式で遺言書を作成できる状態になったのち6ヶ月生存すると、危急時遺言は失効します(民法977条)。
危急時遺言とはあくまで「緊急的かつ一時的な遺言」であるためで、状況が回復したらあらためて自筆証書や公正証書遺言を作成する必要があるのです。
家庭裁判所による危急時遺言確認の審判
危急時遺言を作成後、遺言者または利害関係人(相続人など)は20日以内に家庭裁判所へ申立を行います。必要書類の例は次のとおりです。
【必要書類】
- 申立書(家庭裁判所の様式に従う)
- 遺言書の写し
- 証人3名の戸籍謄本
- 遺言者本人の戸籍謄本や住民票(生存中)
- 医師の診断書(遺言者が生存中の場合)
- その他、状況により追加書類
審判で「遺言者の真意」を確認
家庭裁判所は、証人の証言や診断書などを総合し、「危急状態で作成されたこと」「遺言者の意思能力や真意があったこと」を判断します。これがクリアされれば、危急時遺言は正式に有効となります。
危急時遺言と他の遺言方式との比較
危急時遺言は本当に死期が迫っているときしか使えません。もし時間と手続きの余裕があるなら、公正証書遺言を検討することが望ましいでしょう。
- 公正証書遺言:公証人の関与で形式不備が起こりにくく、検認不要
- 自筆証書遺言:自力で作成できるが、誤字や書式ミスで無効になるリスクがある
また、生前対策として家族信託を活用する選択肢もあります。信託契約を締結することで、自身の財産管理や二次・三次相続先の指定などについて、遺言より柔軟な仕組みを利用することも可能です。
当事務所の対応:証人手配・書類作成から審判申立まで
危急時遺言は発生件数が少なく、実務経験をもつ専門家も限られます。当事務所では以下の対応が可能です。
- 証人3名の手配
- 遺言内容の書き取り(証人の一人として)
- 遺言作成後の確認手続き
※家庭裁判所への遺言確認申立については、弊社から弁護士または司法書士に依頼
作成後20日以内の申立をサポート
作成した危急時遺言は、作成から20日以内に家庭裁判所による確認・審判を受ける必要があります(遺言確認の審判申立て)。このとき、戸籍謄本や遺言書の写し、診断書など多くの書類を揃える必要がありますが、弊社は書類収集のお手伝いを行い、家庭裁判所に対応できる弁護士あるいは司法書士に依頼をかけ、緊急事態でお困りのご依頼者様をしっかりとバックアップいたします。
まとめ
危急時遺言は、その名のとおり危篤時にしか使えない非常に特殊な形式です。もし身近な人が「もう時間がないが、どうしても遺言を残したい」という状況なら、この制度の利用を検討してみましょう。ただし、準備や手続きがやや複雑である一方、証人の確保から家庭裁判所の申立まで迅速に対応する必要があります。
当行政書士法人では、危急時遺言の作成サポートから弁護士あるいは司法書士による裁判所申立の依頼まで一通りの実務経験があるため、スムーズな対応が可能です。危急時遺言の活用についてお困りの方は、ぜひお早めに無料相談をご利用いただき、少しでも早く適切なサポートを受けてください。










