「相続の備えとして遺言を残したいものの、専門家を使う余裕がない」「親に遺言書を書いてもらいたいが、高齢で手続きが負担になりそう」
こうしたお悩みを抱える方は少なくありません。遺言には公正証書遺言など正式な手続きがある一方、比較的手軽に作成できる自筆証書遺言という選択肢も存在します。ただし、簡易な方式を選ぶからこそ、基本的なルールを押さえておかないと無効のリスクが高くなるので要注意です。
ここでは、最も簡単な自筆証書遺言の書き方や簡易な遺言書を補強する工夫(遺言執行者の指定など)、そして遺言書を作成するうえで大切なポイントについて説明していきます。
法定相続人1名に全財産を渡す場合
たとえば、法定相続人が1名だけですべての遺産をその者に譲ると決めている場合は、以下のような形式の遺言でも最低限の体裁を整えることができます。
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遺言書 私の有する一切の財産は〇〇〇〇(氏名、生年月日、住所)に相続させる。 令和○年○月○日(遺言書作成日) [遺言者の自署] 押印 |
このような簡易的な遺言書のポイントは次の通りです。
- 自筆証書遺言の要件として、「全文自筆・日付・署名・押印」を守る
- 「私の一切の財産を◯◯に相続させる」形で、財産の特定を簡素化
- 生年月日・住所などで受取人を明確にしておく
簡易的な遺言書であれば時間をかけずに作成が可能ですので、万が一のときの「つなぎ的遺言」としても使いやすいといえます。
「暫定的な」遺言としての簡易遺言
判断能力が低下している人にとっては、複雑な遺言内容を考えるのは難しい場合があります。そのようなときは、簡易遺言を暫定的に用意するのも1つの方法です。
しかし、あまりに簡易すぎる内容だと、財産状況が変わったときに対応できず、結果として別の問題を生み出すことも考えられます。将来、財産が増減したり相続の意向が変わったりした場合は、正式な遺言書(公正証書遺言など)へ移行することを検討しましょう。
判断能力の衰えが気になる遺言者の対策
高齢者など判断能力の衰えが気になる方が複雑な遺言書を作ろうとすると、家族が「本当に本人の意思で作成したのか?」と疑う可能性も否定できません。万が一、本人が十分に内容を理解していなかったり、誰かが強要して作らせたとみなされたりした場合、後日裁判で遺言無効が主張されるリスクが高まります。
このようなとき、逆に簡易的な遺言書を作成すれば、遺言書本人も混乱せず自分の意思を書き記すことができるかもしれません。簡易遺言は状況に応じて活用することが大切です。
専門家の支援や医師の診断書を活用
万が一、判断能力に不安がある状況下でも遺言を作成しなければならないときは、公証人などの専門家に関与してもらい、「遺言者がしっかり意思表示できていた」ことを医師の診断書などで証明しておくのが望ましいといえます。
なぜ遺言執行者を指定すべきか?
遺言執行者とは、遺言書の内容を現実に実行する権限を持つ人をいいます。遺言による財産分配が行われる際、通常は相続人全員の署名・押印が必要ですが、遺言執行者が定められていると、その人だけで手続きを完結できるケースが多くなります(金融機関や法務局が承認する形)。
遺言執行者が指定されていることの利点
- 相続人全員の印鑑を集める手間を省ける
- 遺言執行者が中立的に対応すれば、家族の感情的対立を防ぎやすい
- 不動産登記などもスムーズに進み、相続人が無用な手続きを強いられない
特に、相続人ではない第三者に財産を贈りたい場合、相続人側が協力してくれない恐れがあるため、遺言執行者を指定しておけば円滑に手続きが可能となります。
遺言書があれば戸籍収集を省略できるか
遺言が存在し、「財産を誰に渡すか」が明確であれば、通常の相続手続きのように被相続人の出生から死亡までの戸籍を集めなくても済む場合があります。
- 銀行や役所が「遺言書による手続き」を認めれば、最低限の戸籍(死亡記載のある戸籍謄本など)だけでOK
- 遺言執行者がいると、相続人全体を確認する必要がないため、より簡略化される
遺留分問題がある場合は注意
相続人のうち、遺言に納得しない人がいて遺留分侵害を主張する場合、金融機関などが追加で戸籍を求めることもあります。「遺留分を持つ法定相続人が誰なのか」を特定するため、結果として出生から死亡までの戸籍が必要になる例もあるため、絶対にすべて省略できるわけではありません。
手書きが困難な人は公正証書遺言を選ぶ
自筆証書遺言には全文の自書が原則必要ですが、手が不自由だったり病気で筆記が難しかったりする場合は公正証書遺言がおすすめです。公証人が遺言内容を代筆し、遺言者は口頭で意思を述べるだけで済むケースがあります。
ただし、代筆してもらう際にも公正証書の形式を遵守する必要があり、また「何をどのように処分するか」を明確に伝えなければなりません。
遺言公正証書を作成する場合の証人問題
遺言公正証書は、公証人が内容を確認して作成する遺言です。遺言形式のミスがほぼ皆無で、保管も公証役場が行うため、紛失や偽造の心配が少ないのがメリットだといえます。ただし、証人2名が必要で、手数料も自筆証書遺言に比べて高めです。
証人2名をどう用意するか
遺言公正証書の作成には、遺言者と利害関係がない2名の証人が立ち会う必要があります。身近に適切な証人がいない場合は、公証役場に紹介を依頼することも可能です。専門家に頼むより費用が安いケースが多く、書類作成の手間も軽減されます。
危篤時でも遺言が可能「危急時遺言」
危急時遺言は、死亡が迫っている被相続人が、口頭で意思を示す形で成立させる緊急的な遺言形式です。3名以上の証人が必要で、証人の1人が文書にまとめ、他の証人とともに署名・押印します。
少しでも手続きをスムーズにするためには、あらかじめ「遺言者に意思能力があるかどうか」医師の診断書などを用意しておいたり、スマホやビデオなどで作成過程を記録したりしておくと、後日の争いを防ぎやすいといえます。
20日以内の家庭裁判所確認が必要
危急時遺言は一時的な手段なので、作成後20日以内に家庭裁判所で確認を受ける必要があります。もし確認が行われないと遺言は失効するため、限られた時間で手続きを進めなければなりません。
遺言を変更しなくて済むように「予備的遺言」を書く
遺言作成後に、遺言書で指定していた受益者(相続人や受遺者)が先に亡くなる可能性も考慮すべきです。そこで「予備的遺言」を用意すると、状況変化の都度遺言を変更しなくても済む場合があります。
- 【書き方例】「私の有する全財産はAに相続させる。ただしAが先に亡くなっていた場合はBに相続させる」
- 夫婦がお互いを相続人として指定する場合など、死亡順序が読みづらい場合に有効
まとめ
簡易な遺言書でも、最低限の法的要件を満たしていれば十分効力を持ちうるため、時間や体力が限られている方には有効です。ただし、財産内容が多岐にわたる場合や相続人同士の関係が複雑な場合は、公正証書遺言のほうが安全・確実だといえます。
最初は手軽な自筆証書遺言から始め、落ち着いた時期に公正証書遺言へ更新するという「つなぎ的」な発想もいいかもしれません。いずれにしても、遺言を残すと決めたら遺言を扱う専門家に相談し、適切な形式や条文を整えておくと後々のトラブルを回避できるでしょう。
弊社では初回無料相談を実施しておりますので、お気軽にお問い合わせください。










